大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和41年(ワ)798号 判決 1970年1月29日

主文

被告は原告に対し金五〇一万三、七一〇円とこれに対する昭和四〇年五月六日から支払済までの年六分の割合による金員とを支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告

主文と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二、被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求める。

第二、主張事実

一、請求の原因

1、原告は訴外本田坑木商会こと本田政雄に対し左記のとおりの約束手形金債権を有しており、右手形金債権はいずれも判決によつて確定されている。なお約束手形の振出人は全部本田坑木商会こと本田政雄、受取人は大和産業株式会社、年度は昭和、振出地は福岡県粕屋郡古賀町である。

<省略>

<省略>

右のうち(1)、(5)、(9)及び(10)の手形については原告はこれを受取人大和産業株式会社から裏書譲渡を受け、(2)、(3)、(4)、(6)、(7)及び(8)の手形は同受取人から被裏書人白地で譲渡を受け、原告はそのうち(1)、(5)、(9)、(10)の約束手形を西日本相互銀行に、(2)、(3)の約束手形を福岡銀行にそれぞれ裏書譲渡し、(4)、(6)、(7)、(8)の約束手形を福岡銀行に取立委任裏書をし、これら各銀行は各満期にそれぞれ支払を求めて支払場所に呈示したがその支払を拒絶され、原告はこれら手形を昭和四〇年五月四日までには全部受け戻して現に所持している。

2、右の各約束手形は前記本田坑木商会こと本田政雄の営業のために振出されたものである。

3、ところが本田政雄は昭和四〇年二月二六日被告と営業譲渡契約を締結し、その営業の一切を営業用資産と共に被告に譲渡し、被告は同日以降従前の本田坑木商会所在地で本田坑木商会の商号を続用して坑木販売業等を営んでいる。

なお被告は別件訴訟(福岡地裁昭和四〇年(ワ)第四〇六号)において原告に対し本田政雄の営業を譲受け商号を続用したことを極力主張、立証したから本件訴訟において突然右営業譲渡、商号続用を否認することは信義則上許されない。

よつて原告は営業譲受、商号続用者である被告に対し右約束手形金とこれに対する満期日の後で原告が右手形を受け戻した日の後の昭和四〇年五月六日から支払済までの商法所定の年六分の割合の遅延損害金との支払を求める。

二、請求の原因に対する被告の認否

請求の原因1、2の事実は知らない。3の事実は否認する。被告は本田政雄から営業譲渡を受けた事実は全くない。

三、被告の抗弁

1、訴外市川大は昭和四〇年二月一八日現在原告に対し一、七五〇万二、六六〇円の債務を負担していた。右債務中には原告の主張する五〇一万三、七一〇円の手形債務は全部含まれている。

2、ところで右市川大は原告に対し左記のとおり計一、六五八万四、三九〇円を弁済した。すなわち

(1)、昭和四〇年三月一日から昭和四一年一月一四日までの間に一五八万七、七九〇円

(2)、昭和四〇年四月二一日、四四〇万円

(3)、昭和四一年一〇月、七二〇万円

(4)、昭和四一年一〇月、二一五万円

(5)、昭和四一年八月一五日、一〇万円

(6)、昭和四一年一二月一日、一〇万円

(7)、昭和四二年一一月一〇日、一〇二万六、六〇〇円

(8)、昭和四三年三月三一日、二〇万円

従つて市川大の原告に対する残債務は九一万八、二七〇円であつて、仮りに被告が原告主張の約束手形金の支払義務を負うものとしても、右は九一万八、二七〇円の限度内に減縮していることは明である(なお被告の主張する弁済金の内訳の合計計算には違算があることが明らかであるが、被告の主張する金額そのままを摘示した。)。

四、被告の抗弁に対する原告の認否

原告が昭和四〇年四月二一日ごろ市川大から三八四万一、八五〇円の支払を受けた事実は認める。右支払は本件約束手形金債務とは全く別の債務の弁済に充当された。右以外の抗弁事実は否認する。

第三、証拠関係(省略)

理由

一、成立についていずれも争いのない甲一号証の一と二によれば請求原因1の事実は全部これを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二、原告会社代表者木下只喜本人尋問の結果から真正に成立したものと認められる甲二号証の一ないし六に右代表者本人尋問の結果をあわせれば請求原因2の事実も全部認めることができ、右認定に反する証拠はない。

三、成立についていずれも争いのない甲三号証の一ないし三(甲三号証の二と三は原本の存在、成立共に争いがない。)、同四ないし八号証に本田政雄証言をあわせれば次のとおりの事実を認めることができる。すなわち

1、本田政雄は有限会社本田坑木商会の代表者として坑木の販売業等を営んでいたが同有限会社が経営不振のため清算に入つた後は本田坑木商会との商号を使用して個人で坑木販売事業等を営んできたところ多額の債務を抱えて昭和四一年五月一二日福岡地方裁判所で破産宣言を受けた(同庁昭和四一年(フ)第三号破産事件)。

2、ところで原告は昭和四〇年四月一九日本田政雄に対する一〇九万円の約束手形金債権に基づき、同人方で各種動産の仮差押をしたが、右仮差押に対し被告は他一名と共に第三者異議の訴を提起し(福岡地裁昭和四〇年(ワ)四〇六号)、同訴訟において自ら請求原因3の事実を強く主張し、営業譲渡及びこれに伴なう財産の譲受により差押物件の所有権が被告に移転し、かつ本田坑木商会の商号は被告において使用しているものであつて原告のした仮差押は違法であることを立証しようとして証拠を提出した事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。右のように前訴で同一当事者に対し攻撃方法として営業の譲受、商号の続用を主張立証した者が後訴で突然これをひるがえし、右と全く両立しない営業譲渡を受けたことも商号続用をしたこともない旨の主張立証をすることは特段の事情のない限り信義則上許されないから請求原因3の事実も全部立証されたものとするほかはなく、被告が本田政雄から営業譲渡を受けた事実や、商号を続用した事実は全くない旨述べる本田政雄証言、被告供述は採用するに由ない。

従つて被告には商法二六条一項により原告に対し請求原因1の手形金の支払をする義務がある。

四、抗弁事実中原告が昭和四〇年四月二一日ごろ三八四万一、八五〇円の弁済を市川大から受けたことは当事者間に争いがない。

五、乙三号証、同一〇号証の一ないし三及び市川大証言中にはいずれも被告主張の抗弁事実に沿う記載及び証言があるが、これだけから直ちに被告抗弁事実を認めることはできず(市川大は乙三号証、同一〇号証の一ないし三はいずれも原告会社との取引を記帳した会計帳簿から作成されたものであり、また弁済金のうち相当部分は領収証があり、強制競売によつたものも公の記録により容易に証明できる旨証言しているのに、右弁済を確実に裏づけるに足りる会計帳簿、弁済金領収証、強制競売の記録等は全く証拠として提出されていない。)、当事者間に争いのない三八四万円余の弁済金も請求原因1の約束手形金の支払に充当されたとの証拠も前示直ちには信用し難い各証拠以外にはなく、結局被告主張の抗弁事実は認めるに由ない。

右各認定事実によれば原告の請求はすべて正当であるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例